大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山形家庭裁判所酒田支部 昭和58年(少)1号 決定 1983年1月26日

少年 T・T子(昭四〇・三・一二生)

主文

少年を山形保護観察所の保護観察に付する。

山形保護観察所長は、環境調整措置として、少年の保護者に対し、精神薄弱者福祉法所定の福祉的措置その他少年の就職および家庭環境の整備に関して指導すること。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五七年一二月五日、株式会社○○観光に雇用され、山形県酒田市○○町×丁目×番××号所在の同会社経営のキヤバレー「○○館」において、接客業務に従事していたものであるが、同年一二月二三日午後一一時一〇分頃、同店舗内二五番客席において、全裸になつて、客であるA(当時三三歳)を相手方として性交する等、卑わいな行為をし、かつ、同人をして卑わいな行為をさせたものである。

(適用法令)

風俗営業等取締法七条二項、三条、山形県風俗営業等取締法施行条例二三条四号

(処遇)

一  少年は、知的発育に障害があつたため(鑑別結果によればIQ五六WAIS)、小学校の特殊学級、中学校の実務学級でそれぞれ教育を受けたが、父は電炉作業員として昼夜三交替制で働き、家庭でも飲酒や盆栽の趣味等に没頭するなど、少年にとつては父親としての存在感が薄く、また、母は、子に対する愛情は強いが、経済観念が乏しく、安易に借金をするなど家事処理能力にも欠ける面があるという家庭状況のもとで、少年の発育に応じた適切な躾教育が十分になされなかつたことから、自我の確立が遅れ、社会性が著しく未熟であり、同世代の者とも主体的に人間関係をもつことができず、昭和五五年三月中学校を卒業後、既に数名の男性と次々に誘われるままに安易に性的交渉をくり返し、三回にわたつて妊娠中絶手術を受けるなどしていたものである。

二  少年の母は、高利金融業者である所謂サラ金から無計画に金員を借入れ、約三、〇〇〇、〇〇〇円の債務の返済に窮するに至り、昭和五六年一〇月頃実兄Bの援助により、ようやくその債務を返済することができたのであるが、昭和五七年一〇月頃、稼働先の旅館に出入りする呉服販売業者から代金四〇〇、〇〇〇円の着物一式を少年のために独断で購入し、そのために同額の借金をしたことから、少年の父との間で紛議が生じたところ、少年は、同年一一月末頃家出し、知人が働いていた前記キヤバレーにおいて、誘われるままにホステスとして働くようになつたのであるが、一方、母も、同年一二月七日頃父と別居し、旅館女中として住込み稼働するようになつたが、前記借金の返済にも窮したため、少年は、母を援助すべく、前記キヤバレーにおいて、店長から指示されるままに、客を相手に卑わいな行為をするようになり、その収入を母に与えていたところ、本件非行により現行犯逮捕されるに至つたものである。

本件非行は、当時の少年の家庭内の葛藤、なかんづく母の行動により助長されたという側面があるが、同時に、少年自身それ程強い心理的抵抗もなく本件非行に陥つていることが窺われる点に問題の困難性が認められる。

三  以上の諸点を考慮すると、少年は、従来格別の非行歴はないが、適切な保護が加えられなければ、今後著しく不健全な交遊関係等によりその人格形成が歪められ、本件と同種の非行に陥るおそれは大きいというべきである。また、少年は、中度のテンカンの疾病があり、継続して投薬の必要があるところ、従来放任されていたため、服薬を中断していたのであるが、この点についても適切な指導が必要である。

少年の父母は、前記の如く、一旦は別居し、離婚も決意する事態になつたのであるが、本件調査過程における調査官の調査活動および親族の援助により、本件審判期日前に、母は従来の生活態度を反省したうえ父のもとへ戻り、父もまた母を受け容れるとともに、家庭における少年および母に対する態度について反省を深め、飲酒を慎しむことを約束するなど、今後は父母が一致して少年を監護することを期待するこができる状況になつていると認められ、また、少年も、本件観護措置期間中に、本件非行を一応反省し、父母のもとで生活する意志を明らかにしているので、現段階においては、少年について社会内処遇によりその自力更生を図ることは十分可能であると認められる。

そこで、少年については、保護観察に付し少年およびその父母に対する適切な助言指導により、交友関係の改善、家庭環境の調整、就職指導等その環境を調整しつつ、少年の更生を援助するのが相当である。

(環境調整措置について)

少年は、前記のとおり知的発育に障害があり、昭和五五年三月中学校を卒業後、昭和五七年一月頃までは食品会社や家具工場の工員等として働いていたものの、その間にも異性交遊があり、二度にわたつて妊娠していること、また、テンカンの疾病をも有すること等を考慮すると、今後の就職指導に当つては、少年の能力および職場環境につき特に慎重な配慮が必要であり、精神薄弱者福祉法所定の福祉的措置等の要否も検討したうえ、少年の父母に対し、この点につき早急に助言指導を行なう必要がある。なお、担当保護司についても、できるだけ社会福祉に理解のある保護司を指定するよう配慮されることが望ましい。

また、父母の夫婦関係についても、今後の動向に注意して、必要に応じて適宜調整し、家庭における少年の情緒安定を図る必要があると考えられる。

四 よつて、保護処分につき、少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項、環境調整措置命令につき、少年法二四条二項をそれぞれ適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 多田元)

〔参考〕 少年調査票<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例